マネジメントオブザベーション(MO)

玄海原子力発電所3号機のTV報道内容から

3月30日、玄海原子力発電所3号機の2次系配管から微量の蒸気漏れがあり、現在、発電を停止し、丁寧な対応が行われていると報道されています。

電力会社の職員であれば、すぐに他社の情報が共有され、報道から得られる以上の情報が入手できますので、報道に違和感を感じることがあっても、他社の発表内容に違和感を感じることは、まずありません。

むしろ、他社の皆さんが、様々な苦労をしながら、情報提供を行っている姿勢に頭が下がる思いになります。

ところが、現在の立場のように、電力会社の報道発表内容の詳細を見ることができなくなり、テレビ(新聞)のニュースのみでトラブルの状況に接するようになると、今まで気づかなかった違和感を感じるようになりました。

それは、放射性物質を含まない「微量な」蒸気漏れがあったという事実と「配管に1センチの穴が開いていた」という事実がうまくつながらないのです。

インターネットで検索すると、「保温材が巻いてあった」ということが分かりましたので、「微量な」の理由が判明し、なるほど!と納得できましたが、「保温材」というキーワードにたどり着くまで、自分で検索を行う必要がありました。

九州電力さんにも、テレビ局さんにも、お付き合いさせて頂いている方が沢山いらっしゃいますので、皆さんが誠実で、努力家であることは、もちろん分かっています。

しかし、「字数」や「時間」といった制約がある中で情報を作成・加工する時、「分かりやすい」とか、「墓穴を掘らない」など、言葉の選び方(使い方)を重視しすぎると、大切なキーワードが抜けてしまいます。

電力会社がきちんと発表している重要なキーワードが、加工の段階で落ちてしまうと、電力会社が「矮小化」しているように感じてしまうことすらあります。

一方、電力会社においては、「微量な」というキーワードは、特に慎重に使わなくてはなりません。保温材を通して漏れているから、「微量」なのであって、もし、保温材がなくても、「微量」という言葉が使える状況だったのでしょうか?(例えば、上流に弁があって、それが閉まっており、いずれにしても「微量」ということであれば余計なお世話となります)

原子力は、我が国の貴重なエネルギー源ですが、原子力が持つエネルギーは巨大で、加えて、多量の放射性物質を有することから、独自で、独特な、取り扱いが必要です。

だからこそ、日本人が持つ繊細さや誠実さは、原子力を扱う上で、世界に誇れる大きなメリットになります。

過去の不祥事を含め、それがうまく機能していないのは大変残念なことです。

マネジメントオブザベーション(MO)や確率論的リスク評価(PRA)の肝は、情報の流れをシーケンシャルにとらえることです。

例えば、報道発表に「情報の流れをシーケンシャルに捉える」という視点を応用して考えると、発表資料(プレス分)の最後に、重要な「キーワード」を記しておくなど、後工程で情報を加工する際の参考になる情報を加えておくことなどの改善案が浮かびます。

まさに、若いころに諸先輩からたたき込まれた「後工程はお客様」と同じことですね。

このように考えると、今回の事例のキーワードは、「人身災害なし」「屋外で」「放射性物質を含まない」「保温材を巻いている配管」「もやもやした蒸気」「隔離することにより直ちに停止」「発電を停止」などになるのでしょうか。

加えて、なぜ、2次系の配管から漏れたのか(漏れても良いという訳ではありませんが、1次系よりも漏えいの可能性が高いという理由)を説明しておくことも必要です。それが、重要度という考え方であり、「2次系(放射能なし)から漏れるなら、1次系(放射能あり)から漏れてもおかしくない」という一般の方々の素朴な疑問にあらかじめ答えておく必要があるからです。

リスクコミュニケーションにおいては、特に、「共通の価値観」と「情報の流れ」が重要です。

共通の価値観のひとつとなる「情報提供区分(重要度分類)」も、マネジメントオブザベーション(MO)や確率的リスク評価(PRA)を用いて作ることができます。

皆様、今日も一日、ご安全に。

ゼロナイズへのお問い合わせ

安全管理の疑問やお困りごとなど、お気軽にご相談ください。

お問い合わせフォーム

コメントを残す

*